シナプス全細胞の日記

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僕のマンションにいるお掃除おばちゃんについて

僕の住んでいるマンションにいるお掃除おばちゃん

 

 現在、僕は学生の身分であるにもかかわらず、バンコクにある30階建て高層マンションの6階に住んでいる。家賃は3万2000円と、日本の物価から考えると破格の値段ではあるが、タイにおいては中産階級くらいの人が住んでいる。僕はバイト代で難なくと住む事ができている。

 

 タイのマンションには基本的に共有のプールやジム、一階のエントランスには広々としたラウンジが併設されていて、住人であれば誰でも自由に使うことができる。さらにそれに加えて、3人ほどの警備員や施設管理者、そして共有設備や廊下の掃除をしてくれるおばちゃんが8人ほど常駐している。

 

 

 お掃除おばちゃんはむらさき色のポロシャツに黒の長ズボンを履き、エプロンを着ているので一目みて”あ、この人達は掃除をしてくれている人達だな”ということが分かる。しかし、なぜか僕は彼女たちの掃除している姿をほとんど見たことがない。

 

 

 僕のいる6階にはプールとジムがあるので、彼女たちにとっては一番掃除が大変で時間のかかるフロアだ。なのに掃除している姿をほとんど見たことがないというのは、一体全体どういうことなのか、不思議、実に不思議だ。お掃除おばちゃんたちは本当に掃除をしているのだろうか。かねてより疑問に思っていたが、先日この謎が解けた。 

 

 

 プールの横には共有のゴミ捨て場があり、曜日や時間帯に関係なくなんでも捨てることができる。タイには分別という概念があまりないらしく、みんな一つのでかいゴミ箱に生ゴミからビンまで分別をせずに捨てている。日本人がペットボトルのラベルを剥がし、キャップを外し、中を綺麗に洗ってから捨てる光景をタイ人が目にしたらあまりの律儀さに関心して涙を流すか、呆れて笑ってしまうに違いない。

 

 

 話を戻す。

 

 

部屋にゴミを置いておくのが嫌いな僕は、毎日そのプール横のゴミ捨て場にゴミを捨てに行く。時間帯は朝行くこともあるし、昼に行くこともあるし、夕方に行くこともある。

 

 

ある日、ゴミ捨て場の裏にある非常口の方からおばちゃんたちの笑い声が聞こえた。いつも喋り声などは聞こえていたけれど、特に気にしたこともなかった。その日はたまたま気になり、チラりと非常口を覗いて見てみると、おばちゃんたちがみんなで地べたに座り、ジュースやお菓子つまみながらおしゃべりを楽しんでいた。枕もあった。僕は吹き出してしまった。

タイでは店員さんが仕事中に携帯でゲームをしたり、友達と電話をしたり、寝たりしている光景をよく目にしたりする。セブンイレブンの中で犬が寝ていることもある。

 

 

日本では、働いている時間はやることがなくても仕事を見つけてやれ、という教育をされてきた。なので、そんなタイ人の姿を見ると「気楽でいいなぁ」と微笑ましい気分になる。

 

そして次第に日本での過酷だった労働環境を思い出しては無性に腹が立ってイライラしてくる。

 

オーストラリアにいる頃、僕も2回だけお掃除お兄ちゃんをしていたことがある。

 

1回目は、メルボルンという街の中で一番安い、荒廃した宿でのハウスキーパーだった。強面のインド人オーナーに給料は出ないが、毎朝の掃除で宿泊代をタダにしてやると言われたので、金のなかった僕は二つ返事でOKした。”全部の掃除が終わるのに大体3時間くらいかかるぞ”と言われていたが、持ち前のセンスで1時間ちょっとで終わらせていた。掃除を始めて3日目にクビを宣告された。

 

2回目は、パースという街にある、これまた一番安いバックパッカー宿だ。そこは2ヶ月働いて限界がきたので自分から辞めた。

 

掃除というのはこんなに辛いものかと思った。みんながクソ小便をして汚れた便器、皮脂やかみの毛や精液のこびりついたシャワー室、ホコリまみれの廊下、食べ物が腐っていやな臭いのするゴミ箱、排水溝が詰まり山のような洗い物が積み上げられたキッチン、とにかくクソで下劣で最低最悪でこの世の終わりみたいな仕事だった。

 

汚い場所を綺麗にすると心も綺麗になる、みたいな事を言う奴がいるが、それはとんでもない嘘だ。最低最悪の仕事をしていると、いつの間にか人類の滅亡を祈り、自分のことが嫌いになってくる。自分のことが嫌いになると、他人に対しても卑屈になる。トイレには神様がいるなどとほざくやつはうんこやゲロにまみれた便所を掃除したことがないんだと思う。

 

しかももらえる給料なんて雀の涙ほど。これほど最低最悪で屈辱的な仕事が世の中にあることが信じられない。しかもそれを生業としている人間がこの世に存在することも信じられない。彼らの心が綺麗だとはとても思えない、心の底で怒りや恨みや嫉妬が発酵して腐っているはずだ。

 

2、3ヶ月しか掃除をしていない僕が言うのも何だが、掃除を仕事にするというのはとても辛く、厳しいものなのだ。

 

だから、僕のマンションにいるお掃除おばちゃんが少しでもサボっているのを見ると、”いいぞ!もっとサボってサボってサボりまくって、なるべく掃除をせずに、おしゃべりの対価として給料を一円でも多くむしりとってやれ!”と心の内で叫び、スカッと胸の晴れるような気分になる。

 

 お掃除おばちゃんたちが仕事をしているところなんか見たことがなかったけれど、そういえばマンションの中で埃が落ちていたり、トイレが汚れているのを見かけたこともなかった。

 

彼女たちはやることはしっかりとこなしていた。やることさえやれば、あとは何してもいいのだ。合掌。

 

 

Ps:清掃員に仕事をさせているこの世の全ての社長やマネージャーは、今すぐに彼らの給料を上げるべきだ。それかお前がやれ。声を大にして言いたい。